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夜は流れる

by 郷木 鳥夢

 走ったら、走っただけ、やって来るものは夜です。この夜は走り出すたび、フロントガラスの向こうで生まれて、雨のように流れ出すのです。

 それは誰をも等しく包み、過不足のなさで周囲を勝手するものですが、まず大切なのは、そんな夜にいたのがあなただということです。

 それは時に、あなたと誰かです。

 二人はそれぞれ、荷台に隠した告白のない両思いを乗せたまま、それぞれがいる岸辺を走ってゆきました。それで夜は流れて注がれていきますから、やがて夜が水位を上げていけば、岸と岸とは水平に繋がる仕組みです。

 夜が、それぞれの岸の歪さや、高低差や距離などを、一枚の水面のように満たし、おかげで誰かと、誰かとは、所々で行き来できるようになるのです。

 編んで折った小舟を浮かべて流したり。差し込んだ手先から始まる波紋が、また波紋によって返ってくるのを見たり。

 一枚の水面でつながったその水位を鏡のように見立て、今宵は何を映しましょうか。

 それで終われるなら、それはどんなにいいことでしょう。手を伸ばしたら握手がなされ、友達や恋人にもなれるのです。それでつながれるのなら、どんなによいことだったでしょう。

 ああ、話を続けなくてはいけません。

 走ったら、走っただけ、やって来るものが夜です。夜は走り出すたび、フロントガラスの向こうに生まれて、雨のように流れるのです。

 誰をも等しく包み、過不足のなさで囲んで勝手をするのですが、そんな夜は、本当はあなたを観察する目的で、やって来たほうのものでありました。夜は、見開いた瞳孔のような深さで、黒々と、どこまでもあなたを見ていたのです。

 夜が流れ、注がれ、所々で、こちらの岸とあちらの岸とを、水平に繋げていたとき、あなたはすでに夜に魅入られておりました。あなたが夜を受け入れたのではなく、夜によって、あなたの感情は在り得たのでした。

 もう、あなたの運んでいた好意は、あなた個人の好意ではなかったのです。あなたは虚ろな穴のようにあって、何もかもが在り得るかわりに、何一つない。何一つないものだったのです。

 夜の雨脚はさらに加速して、前方に景色はみえません。沈んだところへ蓋をされれば、あなたは、あなたであったことさえも、危うくなってしまいます。

 この夜は、やって来るほうのものでした。今もフロントガラスの向こうを、雨のように流れていきます。

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