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自転車を盗んだ夜

by 郷木 鳥夢

 夕間暮れ。月の出に間に合おうと、僕は細い路地を走っていました。

 狭くて暗い、それは月の出に間に合うための抜け道です。

 僕は薄っぺらな梯子をよじのぼったり、鼻と尻とを煤で汚しながら、隙間をすり抜けて進みました。

 分厚い鉄の蓋を持ち上げて、地下道へ入ったときには、足音が先を急ぎ過ぎ、僕をおいてバラバラに走り出したりして、心細くなったりもしました。

 それでも、もう、あと、トンネルのような間道をまっすぐに駆け抜ければ、月の出に間に合う、という所までやってきたのです。

 あと少し。だから、僕はそこで自転車を盗みました。

 盗んだ自転車で、狭く暗い路地をするすると走り抜けて、そうして僕は、月の出る丘にたどり着いたのです。

 たどり着いたその丘に、その夜、月は昇りませんでした。

 月の昇らない夜を過ごした僕は、盗んだ自転車を押して丘を下りていきました。

 ようやく家へ帰って窓を開けると、明け方の白む空に、赤い月が、唸るようにして揺れながら昇り出すところでした。頬を赤くした月の、鼻先とお尻は煤で汚れ、ラグビーボールのように変形した月でした。

 その月を見たとき「あれは、あの路地を抜けるのに手間取った!」とわかり、僕は悪い気持ちになったのでした。

 遅れても、昇ろうとしている月。

 だから僕は眠らずに、朝の、まだ人の影の付かないうちに、こっそりと家の門を出て、盗んだ自転車を押しながら、あの場所へ戻すために、もう一度歩き始めたのです。

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