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ダンスしている

by 郷木 鳥夢

 いま、遠いまちにいて、わたしはダンスしています。

 目の前には無個性な服装の男がひとりいて、わたしのダンスの、リズムの上辺だけ取って、首を揺らしています。

 彼の頭上に灯るランプの灯が、首輪のない黒い犬を一匹、石壁に浮かび上がらせると、その犬は、石畳に残る黒い水たまりへとぷんと入り、そこは暗いタールの泉に変わって、動きをなくします。

 わたしはダンスしています。遠いまちに来て、路地は深い谷のようで、壁の所々には窓があって、それぞれが、異国の旗に似る色合いの、四角い光を灯していました。

 わたしはダンスしています。こんなに踊れるだなんてと、嬉しさよりも、他人事のような不思議さで、ますます激しく踊り続けていくのです。ちょっとしたステップにも、風が囁いてくるのがわかるので、腕を引きながら一気に回すと、気温の渦を作って、服の代わりに纏付きました。

 わたしは心に誓いました。

「夢ならこれを夢だなんて、絶対に気づかないから」

 タールの泉がぶくぶくと泡立ち、中から黒い犬が戻ってきました。真新しい首輪をしていて、体を揺らすと水しぶきが飛び散りました。

 わたしのダンスは続いていました。わたしの踏み出すステップは、ついに足音を追い抜いて、意図を先に落とし始めました。

 意図は、ひとすくい、ひとすくい、ばらばらに撒かれ、それはてんでに夜空へ飛び込み、黒い小鳥のように飛んで行きます。

 遠いまちの、石壁の谷間に、一本しかない道が続いています。ただ一本しかない道が。たった一本しかない道が、続いて行きます。

 建物の裂け目に見えるのは、見通せない黒曜石の空です。

 ゆらぎのない空の断面には、昨夜切り落とした爪が、化石のように残っていました。

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