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過ぎて行く同じ場所

by 郷木 鳥夢

「扉が閉まります。ご注意ください」

 目の前でゆっくりドアが閉まり、さっきまでいたホームとぼくたちは、分厚いガラス窓のついた扉で切り離されました。

 窓の向こう側に、マフラーを捲き直している男性と、乾いて跳ねる黒髪を太く握って、まとめようとしている女性が立っています。

 電車がゆっくり動き出すと、ふたりは右手の方へ流れていき、続いて駅の看板が流れて行き、売店の光が流れて行き、指差し確認の駅員が流れて行き、それから上り階段と下り階段が流れて、ベンチに座る二人の子供が流れていって、また駅の看板が流れていきました。

 加速していく電車の中で、ぼくは両手をポケットに入れ、立ったまま流れて行く景色を見ていていました。

 流れて行くホームの景色の中に、また指差し確認をしながら立っている駅員の姿を、もう一度見つけた時でした。車内アナウンスがこう告げたのです。

「ご乗車の列車は、この先、ホームを出ません」

 アナウンスがそう告げたとき、見覚えのある、マフラーを捲き終えた男性が右手の方へ過ぎていくのが目に入りました。

 ぎゅっと黒髪をまとめて縛った女性がホームの売店で何かを買おうとしています。

 上り階段を駆け降りてきた男性が息を切らせて立ち止まり、見えてきた下り階段に子供らの後ろ姿が消えていきました。

 見覚えのある駅の看板が通り過ぎる時、看板の文字はさっきよりも汚れているように見えました。

 あのマフラーを捲いた男性は、杖をついて立っていました。

 黒髪をばっさりと短くした女性は、ベビーカーを押して歩いています。

 ゆっくりとした動きの中年男性と制服姿の女の子が、売店で何かを買っていて、学生らしき男女が仲良さそうに階段を下りてきて、初めて顔を見る年若い駅員が指差し確認をしています。それから色あせていた看板を、新しいものと交換しているところを見ました。

 電車は、ずっと同じホームを何度も通り過ぎていきました。それを見ている車内は、ドアの閉まった時のまま、瓶詰めのように保存されていて、そこにぼくたちは立ったまま、今もずっと外を見ています。

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