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影に渡した夜

by 郷木 鳥夢

 私はいつもの通り、夜を待って散歩に出ました。

 最終電車も行ってしまった後の、ひっそりと静まり返った駅舎の脇を抜け、そこから線路伝いにずっと行きましたが、通りの家々はどこも灯を落としていたので、町に灯りはほとんどなく、代わりに星の光が夜空から地上まで届いて、地面の平らなところをほんのり明るくしておりました。

 私は手に入れたばかりの新しいカメラを手に「こんな夜の中からどんな光を盗み取って写してやろうか」と、そればかり考えながら歩いていきました。

 ある角に差し掛かった時、ちょうど正面に月の出を見かけたので、立ち止まってしばらく見上げていましたら、昇って行く月の明るさに、星々の光がどこかへ追いやられて、夜空からすっかり消えてしまったのでした。

 明るい月夜には、その月だけがひとつ、浮かんでいることになりました。

 私は見えなくなった星々の居所について考えながら、また夜道を歩きはじめました。

 夜道を行くあいだ、線路沿いに続く草葉の黒い茂み辺りからは、星の瞬く時のように、ちらちらと虫の声がしていました。

 次の角のところで、ふと「無数の星たちは、あの月に夜を譲って、今はこっそり地上に降りてきているんじゃないだろうか」と怪しみ、私は、月光に濡れる草葉の裏側を、そっとのぞき込んでみたのです。

 そのとたん、ちらちらと聞こえていた虫の声は、もう天の川が滝になって降ってきたかというほどの数になって、それはもう一斉に、ガンガンと銅羅のように容赦なく、私の頭を打ち鳴らしたのです。

 私は慌てて草むらをのぞくのをやめて、立ち上がった、刹那、

「影に渡した夜だぞ!」

 と、誰かが耳元で怒鳴ったのを聞いたのでした。

 気がつけば私は、線路沿いの夜道に立っていました。

 線路沿いに続く草葉の黒い茂み辺りからは、小さく星が瞬く時のように、ちらちらと虫の声がしており、空を見上げると、星ひとつない夜空に、月だけがひとつぽっかり浮かんでおりました。

 今宵のあの月は、もしかしたらお日さまの影であるのではないでしょうか。

 それから目を落とすと、暗いアスファルトの上には、暗い夜の色よりもずっと濃い色の、私の影法師が落ちていて、それがずいぶん勝手気儘な動きで夜道の上を散歩している様子を、不意に見つけてしまったのでした。

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