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赤い踏切

by 郷木 鳥夢

 昨日のわたしが、拍子木のような音を打ち鳴らし、歩いた道を戻ってくるので、今日のわたしへ遮断機が下りてしまったのです。

 誰もいない踏切に、警報の鐘が鳴っています。覗き込んで暗闇の先を見やれば、枕木ばかりが均等に並んで、あれは歩みに足取りを従わせるためのものなのでしょう。

 未来は、いま、無人です。何しろ今日が止まっているのですから。

 踏切の前にあるコンクリートブロックに腰掛けて、スケッチブックを開いて、鉛筆をくるくる回して、引き続く警報器の運動を眺めながら、せめてこの日を創作していましょうか。

 部屋は西向きのワンルームに決めました。間取りはシンプルで、布団は床に。開けた窓からは、夏の夜風が入ってきます。首を振る扇風機の顔を、両手で正面に押さえてやると、がぎぐげごごごと関節が外れたような音を立てました。

 鉛筆をくるっと回し、新しいページを開いて、今度は夜中のバッティングセンターもいいでしょう。ひとり白球を夜の壁に向かって打ち放っている、安定しないフォームを描きます。打球の行方に、線を引いて、とめ。頁。めくる鉛筆、削る。芋づる式にさんざめく現象や出来事の横顔、それに付く名前。あいうえ初夏、夜とか、バイト終わりの自転車の鍵。欄干、束ねる髪、日影の明滅、一番上のボタン、廊下、煙突を浸す、喉、その工場、言葉、散弾の。歯、眉、優しい、鏡。秘密の映し方。口角の作り方。突然階下を過ぎるエンジン音。見れば信号機がひとつ点って、それは赤い。

 赤?赤い光。闇夜の手前に、小さく点る赤。暗闇の、その手前に、赤。ぽつんとして、点滅を始める、それ。

 目の前は、誰もいない踏切です。

 変わらず、警報の鐘が鳴っています。線路内には枕木ばかり均等に並んで、渡ることのできない踏切は、下りた遮断機の中で空っぽです。

 何もない空間が、腕を広げて待っているのに、でも、何ら通過しないこの踏切では、赤い色の心拍が続き、空っぽの警報が、脈打つように続いているのです。

 昨日のわたしが、拍子木のような音を打ち鳴らして、歩いた道を戻ってくるのです。ですからこうして、このように、わたしの今日へ遮断機が下りてしまいました。

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