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あたらしくだってなれていた

by 郷木 鳥夢

 電気を点ける、ときみたいに現れた、逆のまばたきをしたかのような、そんな訪れ方の冬の朝の、冷たい路地とは、いま急に出会ったんです。

 ここで使う人称は「ぼく」でもよいし、もちろんその他、どんな言いかたでもいいのですけれど、ともかく見つけた、朝日の角度のまだ浅くて冷たい路地のこと、それをぼくは、私に、言い残しておきたい。

 電信柱の下のほうに、冷たい空気の匂いが、のっそり溜まっているのが見えますか。

 見慣れていた路地の竹垣が、あたらしく降りた霜を着て、枯れ色に白。その脇を流れる、通勤通学通奏低音の足音が、レゴのように組み合わさって全体を大きく形作れば、さあ、この町の全体図です。

 これまでの、いつものこれらできゅうにそう、ほら、これらはみんな、はじめてのようなかおで、よくしっているせかいから、いきなり恋の相談、打ち明けられるような唐突さで、まるで電気を点けたときのような、逆のまばたきをして、突然目の前へ現れた風景みたいに、なにもかもそのまま、でも、いきなりあたらしくだって、なれていたんです。

 道路を流れる左側通行の秩序。自転車のハンドルを握る赤い毛糸の手袋。昨日と同じマフラー巻きつけて、前髪の分け目に細い眉。最新の白い息を、ひとつひとつ吐いて待つ信号機は赤、交差点です。

 もう、それでじゅうぶん、新作の物語だったではありませんか。

 ついで二行目と、三行目が続き、真っ白な息の描写を借りて、赤信号の横断歩道へフライングし、白い息だけ先に出て行きますと、そのタイミングで青く変わった信号を合図に、一斉に渡り始めた誰もかれもが、もう一度追いついてひとつになる仕組みを、ここは持っているようです。

 ブレーキの摩擦も、路線バスの振動も、赤くした頬っぺたの表面的な冷たさも、点字ブロックの凹凸、ぴよぴよと人口的な鳥の声、冷え切った郵便ポストの堅いひさしの色、はじめて「おはよう」と口にするような、いいえ、もっと言えば、ぼくのスカートときみのネクタイを取り替えて、あれれ、これを以前から知っていたっていいじゃないか、と発見する、そういう話をしているのだけれど、ねえ君。ぼくの話は、白い吹き出し文字になって、きみより少しだけ先に横断歩道を渡っていったんだよ。きっとね。きっとさ。

 誰かにとってあたらしい一日が、連続のここにみつかることもあれば、いつでもいつものこれらで急に、そう、そのようなフォントで書かれたこれらは、いまここで、声に出してほしい物語です。

 表紙になるのは、自転車のハンドルを握る赤い毛糸の手袋や、降りた霜を着て光る、見慣れてきた路地のあたらしい竹垣です。

 逆のまばたきで、突然現れた風景みたいになにもかも、そのままで、あたらしくだって、なれていたんです。

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