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感傷ロケット

by 郷木 鳥夢

 有無をいわさぬ腕力の、巨大な動きによって、ぶつり、チャンネルが切り替えられるのを、そこで目の当たりにしたのでした。

 オッケー、じゃあキュー。で、アクション!。

 そんなように、ここへは突然、目を覚ましたことになります。

   ◇

 タイプライターから生じる打鍵音のように、リズミカルに続いていたのは、先行して周囲に降っていた雨つぶでした。足元から反物のように長くみえるのは白い道で、それは考えを書くために用意された、白い紙のようでした。

 長く続く紙のはるか前方は、やがて溜まっていくはずの、雨水の海に浸っています。

 それまでは、冷たかったのです。……もう番組を変えてしまったように、以前には出来事が、今より少し冷たかったのです。

 さらさらと粒立って流れを作る雨の先が、道の先を沈めているのですが、柑橘類の房の中にある、砂のうのような粒状で、川のようになって流れを作る、ここの雨粒はひとつひとつ、降った時の出来事のまま記憶されているようです。

 あんなに当たり前だった仕組みや、情緒や秩序の、その当たり前はどこへいってしまったのでしょう。

   ◇

「夢を見ていたんですよ」

 そう言いながら、手を伸ばしカーテンを閉めるその人を見ました。やさしく、しなやかな腕の運びで、雨の景色さえも、カーテンの向こうへやってしまいました。

 向こうには、雨が続いているはずです。その時分に生じた感傷は、ロケットのように止まらないで、低い宇宙を飛び続けているはずです。

「夢じゃなかったですよ」

 私は、そう云いたかった。でも、云いかけたことで、感傷のロケットへ番号を振る機会を失った気がしました。

 冷たく点火されたロケットは、軌道をそのままに「カット!よし」の声をいくつか超えて、この低い宇宙を私ごと進んでいく。

 どこまでも、どこまでも、なんです。それは、どこへでも。どこででも。

 オッケー、じゃあキュー。で、アクション!。

 ちいさな砂のう型のロケットの、中に収めた感傷を胸元へ下げて飾っていました。

 湖の底にいて、ぼくが水の中。見上げれば月が湖面でとどまって、ここまでは下りてこないようです。

 けれど、ここは水の中です。山頂や高原と陸続きの、湖の底です。隙間のない水でいっぱいなら、そう遠くないあの月面と関節的に手を繋いでいます。

 ちいさな砂のう型のロケットの、中に収めた感傷を、胸元へ下げてここへは突然、目を覚ましたことになりました。

 ここはきっと、どこか、などというところではなく、ここというどこかなんです。

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