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夕べ気の九月

by 郷木 鳥夢

 夜道に窓が落ちていました。

 カーテンは、ぼんやりと赤味がかり、それが揺れると、中には逆さまな人影も現れたのです。

 そんな昨夜のことを思い出すまで、朝のコーヒーを二杯、必要としました。

 今朝からはすっかり秋でした。夏は、もうここにはありませんでした。

 昨夜の、夜道に落ちていた窓の中に現れた人影、小柄なあの子が姿をのぞかせた、そのときに、私はつい、声を掛けてしまったのでした。

 夜道では、星明かりが虫の音のように、身を潜めていました。

 おかげで、顔を見るくらいの、明るさはあって、小柄なあの子は、両腕を退化した羽のように従え、踏ん張って並べた両の足で立っていました。

 そう、確かにそうでした。あれは昨夜のことだったのです。

 今朝の、二杯目のコーヒーの名残りが、カップの底へ三日月を描いています。

 月のない日を選んで、深夜の便に乗ると言った、小柄なあの子は、住んだ町を処分するんです、といったのでした。

 おおかたを忘れて、しまうために、と。

 とても涼しい朝に、飲み終えたコーヒーが香っています。

 それほど親しくもなかった八月のある日、出会うことでいきなり別れた人があったのでした。

 昼間、窓は空を見るためにあって、夜、窓は隠された生活を仄めかします。

 それが、選ばれなかったほうの選択肢を、夢として見られてしまうような感覚なのに、それを超えてつながった今朝はもうすっかり秋で、あの夏は、もうここのものではなくなっていたのでした。

 涼しい朝に、飲み終えたコーヒーが香っています。また月の出る夜の来る、あの子のいない九月にいました。

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