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朝、訪れていたものたち

by 郷木 鳥夢

 目が覚めると私の頭蓋は透明で、中には三角形をした、色とりどりの紙があり、吹き上がる風に舞い上がって、貼付いたり、斬り合ったりしていました。

 覚めた目に見た私の頭蓋は透明で、中に色とりどりの三角形が無数に飛び回るのを見ていたら、体をひとつも動かさないうちに、涙が出そうになりました。

 みんなみんな、覚えがあります。あの白い三角形は、昨日聞いた自転車の急ブレーキの色です。それからエレベーターのドアが閉まる色や、コールの途中で切れたままになった電話の色もあります。今、きらっと走っていった色は、発券機から吐き出された不良の硬貨が立てた音。客のいないコンビニエンス・ストアのチャイムは深夜、レントゲン写真のようなブルーで鳴りました。

 そういえば夕暮れ、見知らぬ人から呼び止められた時、まるで木製の月が割れたような音を体の中で聞いた気がしたけれど、あれはどの色をした三角形でしょうか。

 目が覚めた時、私の頭蓋は透明で、中を飛び回る記憶たちは、出来事のまま、歳を取ることを知りません。

 今、一枚ぺたりと頭蓋に貼り付いた、見覚えのあるチラシに目がいきました。ああ、そうそう。昨日コンビニでもらったチラシです。太く強調された文字を読むと『好きなくじを引いてください』とあります。 

(なるほどね。どれか選んだら静かになるんだな)

 と、私は思ってみたけれど、色とりどりの紙たちは、息つく間もなく宙を吹き荒れていたし、手を入れたりなんかしたら、私の皮膚は、すぱすぱ切り裂かれてしまうだろうと不安になりました。

 だから私は涙が出そうになって、何も選ぶことなく、もう一度眠ることにしたんです。

 その路地ではちょっと小走りで、ちょうど角を曲がって、景色が変わるような瞬間の、すれ違い様に、ほとんど背中のほうで拾った会話の中、「昨日までのやさしい声とか、はげしい声とか、なんでもない言葉たちが一斉に再生されて、みんな辻斬りになったらしい」と聞きました。

 小屋根の影が落ちた裏口に身を隠すと、「下手人の人相書きがないせいでみんな忙しくなってしまった」と、そこにいた赤い三角形が教えてくれました。

「わかるよ」と言って、私は、私の頭蓋に毛布をかぶせました。影のひと色に色を揃えた三角形たちは、しばらくの間、ばさばさと暗がりで音だけ立てていましたが、やがて同じ一音に塗りつぶされていきました。

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