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カールとピート

by 郷木 鳥夢

 差し込んでいるのは、午後が目を細めているかのような光の帯で、そこで鳴っているのは、廊下の角の棚の上の、古くて大きな黒電話です。

 ベルは大きく、ぎりぎりと、周囲まで震わせるように鳴っています。

 一枚ずつ、日めくりを捲るように、規則正しくベルは続き、一回ごとに、何かが過ぎていくことが、いつも、とても確かです。

 次のコールが鳴らなかった時になって、あれが最後だったと知れること……最後は、いつも後になってから、それ以前の方角に作られるのだということ……そのことを知っているものが、ベルを鳴らす電話の隣にありました。

 人形には、いくつも名前がありました。

 カール、という名前を思い出せば、よく遊びにきた背の低い女の子の明るい声と結ばれますし、ピート、という名前を思い出せば、好きな人の所へ行った栗色の髪の子の、伏し目がちな顔と結ばれます。

 長い間、電話の横にいただけで、いくつも名前をもらっていただけで、古い木彫りの人形で、居続けただけでしたから、だからベルの度にかすかに震えているのでした。

 古くて、大きな黒電話は、鳴り続きます。

 これが最後のコールかどうか。それは、後になってわかることです。古い木彫りの人形は、ですからベルの鳴るたびに、それを受けようとするのです。

 電話の、ベルが鳴るのをやめました。

 古い木彫りの人形は、影で暗くなっていました。奥の部屋からやっとのことで出てきた、足の悪いおばあちゃんが、人形の前で受話器を手にして影を作っています。

「そう。変わりないのが、一番だわ」

「………」

「じゃ、また電話を待ってるわね」

「………」

 それから、古くて重たい受話器が、こちん、という小さい音と一緒に、もとあった場所へ戻されました。

 受話器を置いたその手で、電話の傍らに座る人形に触れたおばあちゃんは、「電話番ありがとね、キミちゃん」と言いました。

 誰もいなくなって、そこに差し込んでいるのは、午後が目を細めているかのような、光の帯です。

 古い木彫りのキミちゃんは、古くて大きな黒電話の横に、座り続けます。さっきよりちょっとだけ、格好良いポーズに変えてもらって。

 古い木彫りのキミちゃんは、古くて大きな黒電話の横で、最後の時とまったく同じ音で鳴る、いつも一番新しいベルの音に揺れながら、そこにいるのです。

 カールだった頃と、同じように。

 ピートだった頃と、同じように。

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