LOG IN

秒針と花

by 郷木 鳥夢

 胸の内を密かに打ち明けるようにして、両手を開いたあなたが、ずっと持ってきた砂時計を見せました。容れ物の中でわずかずつ、でも一度も止まらぬ砂の粒が、しずかに流れ落ちています。

「これは砂時計の、秒針です」

 ええ、砂の落ちること。雪の降ること、花の散ること、星の降ること。みんなそうで、そうであるなら、たとえば乾いていく洗濯物だって、それはきっとおんなじです。

 気づけば忘れている夢や、いつの間にか伸びている髪だって、どれもこれもおんなじでなんです。今朝、加熱したことを忘れて、電子レンジの中、また冷めていくホットミルクだって、皆んな、皆んな、おんなじ仕組みだったんです。

 だから、大きく窓を開けたとき、伝えたいことを思いついたとしたら、それはあの時から流れた分の、とても私的な時間なんです。

     ◇

「風が気持ちいいから、散歩もいいね」

 そんなふうに切り出してから、河川敷を二人、まだ食べたことのなかったパンと、それぞれが好きな銘柄のビールを小瓶で買って、袋にぶら提げ、上流のほうへ歩いていきます。

 身長の異なる二人だから、歩数は異なる、でも同じ速度で。合わない足音で揃う、息の合った進行で。ゆっくり下流へと歩いていきます。

 ふたり、こうして歩いた分だけ、帰り道は遠くなりますが、離れた分だけ、なんだか近くなっています。

「一緒に見る桜は、あと何回?」

「百回だって、見たいけど」

「たったの百回、あればいいのに」

     ◇

 そんなことを夢のように思い出した、ひとりきりの午後になって、細い手を伸ばし洗濯物を取り入れて、すぐに雨がぽつりぽつり降り始めるのを見ていると、黒い瞳の表面へは、少しだけ冷たい小花が咲いていく気がします。

「窓、閉めたほうがいいね」

 と訊ねた声は、音とは違う返事を連れて、ここへいつも来てくれて、今日も体温をわずかに補給してくれます。

 瞳の表面へ流れて落ちて、波紋を作るのは、一枚の花びらあるいは、一粒の雨で、もう充分なんですね。

 四角く切り取られた窓の向こう。

 この雨が上がれば、黒い瞳の表面に咲いた小花たちも、夢見るように浮かぶ夜がやってくるはずです。

 そのままでもう一度、「窓、閉めようか」と訊ねれば、なんだか波紋を描いて漕ぎ出すような、浮力をここに見つけられる気がするので、何度でもくりかえしてしまいます。

 雨は上がり、日は暮れて、一日の終わりに一言、添えて確かめる言葉は今日も、

「ねえ、ここから先のことは、まだ少しだけ見えません」

OTHER SNAPS