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その町は晩餐会

by 郷木 鳥夢

 今日は町全体がキッチンです。

 集まってくる鮮やかな色の野菜たち。青いニンジンの中央タワーや、金色のにらが風に揺れている沿道。銀色に鈴を奏でる枝豆の茂みと、小川をごとごと踏み鳴らす紫いもたちの流れ。

 今夜のメニューは、いったい誰の御もてなしなんでしょう。

 夜空を待ちきれず、もう鐘が鳴っています。ほら鐘が鳴っています。空は、鐘の鳴り終えたほうの音で、うっすらとした光が残っています。

 シルエットに変わった電柱が一本、二本。その間に渡された電線が、吹く風をスライスして、三枚、四枚。すべてまとめて串を通すように、帰宅ラッシュの電車が一本、駅から駅へ。

 みんなみなでみあげて、みあうだけ、みいっているのですが、みなまでこのみちであることと、このみちとみちてゆくことと、みちなる、みちしるべみつけてそれが、みまちがいだとしてもこの、みはてぬみち、みてるみていのみんなのみらいのみちとして、ここにはみえているんです。

 さあ日々が、夜月の前を、猛スピードで過ぎて行くでしょう。

 はやい雲が走って、音はないけれど木々の枝先が、芽吹いて膨らんだり、枯れてやつれたりしながら、激しく踊っているでしょう。

 ほうら、鐘も鳴っています。鐘の、鳴り終えたほうの音で、空で光が鳴っています。

 本当だ。月が素早く、まばたきしているじゃないか。まるい瞳から、眠る弓形になって、そうしてまた見開いた瞳から、祈るように閉じた瞳へと、形を変えながら、コマ送りのように素早いまばたきを。

 そんな中、木々や塔やアンテナや墓標などは、その細長い指先をざわざわ振るい、まじないをかけるように、空間をかき混ぜながら、地に立って動かずいるのです。悲しみを離れた感傷は、べつに個人を必要としているわけではないのです。

 ついに縦に夜が明けます。夜が縦に明けようとしています。

 ストローを差し込んだように、ひゅうひゅう細く抜けていく風が、町のキッチンで起こったはずの調理の音を、ああ大鍋の中でのコトコトや、非常階段で弾けていったぷちぷちや、ボタンの外れた白い服で包んだ蒸気を、熱を、香りを、みんな連れて行ってしまいます。

 こうして作り続けられるものは、いったい誰のためのメニューなのでしょう。

     ◇

 街の隅の一軒家の真夜中。柱時計が鳴りました。日付が変わって、また別の日になって、二階の部屋の棚の奥では、プレゼントされた相手のもういない、おもちゃのロボットが、名前をもらうのを待っていました。

 感傷と悲しみは、それぞれに独立したネジを捲かれます。けれども同じ音を立てて心を動かすので、仕組みの違うものだとは思われていないそうです。

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