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君はさっき渡っていた

by 郷木 鳥夢

 外からやって来た風は、部屋の窓をくぐり抜けるとき、薄いレースのカーテンの裾を、めくるように持ち上げます。そのたびにその隙間から、きらきら光る川面が見えます。

 ここはもう、何かしらの到達点です。そうです、川だって海に近いのです。

 川はすでに湖のように広く、浅く平らかで、流れだって緩やかです。

 流れの最後となる穏やかな川面では、細かく砕いた岩塩を撒くような、細かく尖った光が次々と弾けていて、その浅く広い川面を、君が今、つま先立ちで渡っていく様子が見えています。

 白いワンピースの、裾を持ち上げて歩く裸足の君は、つま先立ちで、水鳥のように足を運び、ぎこちなく回る水車を思わせる動きで、向きを変え、時々振り返りったりしながら、たった一人、ためらいながらでも決して戻ることなく、ああ、この川を渡っていくところです。

 そのとき、前触れもなく風が止みました。何の断りもなく、部屋のカーテンは裾をおろして、川を渡っていた君の様子は、見えなくなってしまいました。

 こんなふうに風は身勝手で、一方通行なのですよ。対岸から自由気ままにやってきて、この部屋へ入ると、動きを止めて見えなくなってしまう。

 今は古いソファーベッドか、あるいはキッチンの食器棚のあたりか、靴箱の下か、わからないですけれど、その辺りで動きを止めて、そのまま消えてしまうのです。

 しばらくすると、まるで新しい風がやってきて、白いレースのカーテンの裾をもちあげて、隙間から物語の続きを見せてくれます。

 窓の外で、川面はどこまでも広く、浅くそしてひららかで、流れは止まりそうなほどに緩やかです。

 川面では、砕いた岩塩を投げつけるように、細かくて無数の尖った光が弾けています。その上を、もう見えない君が、さっき、渡っていったはずなんです。

 そう、ここにいない君は、きっと、さっき、渡って行けました。

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