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あいだのはなし

by 郷木 鳥夢

 家具もすべて運びだしたあとの、何もなくなった部屋に反響音が戻るのは、声真似をするコビトが隠れる場所をなくして、ぴかぴかのフローリングだとかきらきらのシンクだとかつやつやのサッシに腰掛けて、こっちを向き、みんなが一斉の声真似をしているからで、そんなんだから、もうひと拭き丹念に磨き上げてやろうなんて思って、やってたら太陽まで騒ぎに飛び込んできて、床から壁から天井から、ぽんぽん飛び回って窓から逃げ出して、でもすぐまた入ってきて跳ね返ったりしたんで、いよいよ困りましたね。

 掃除の手を止めて外を見れば、春を告げる風が、黒い土むき出しの畑のあたり、寝ぼけ眼な連中からシーツを乱暴にはぎ取って起こすような感じで吹いたりして、湿った匂いの砂ぼこりが巻き上がると、さらに容赦無く、くるくるっと巻き上げて、洗濯物を持っていくように行ってしまうわけです。

 ねえ、もうここへ戻ることはない、なんて、ねえ。いつのまにか暮らしは移動して、

 ぴんぽーん。「こんにちは水道局のものです」

「はーい」……はーいはーいはーい。「ちょっと静かに」

 誰かが住んでいる時には、君たち声真似の主たちは、どこで声をひそめていたんでしょうね。もしかしたらキノコの形をした寝袋なんかに包まっているのかしら。かしら。しらしら。るのか、るのか。しら。るのか。かしら。

「しっ、わかったから」からからからから。「しー、私たちのあいだの秘密にしておくから」から、から。

 水道局の人が行ってしまって、こうして契約を一つ解除するごとに、部屋とまたひとつ関係が切り離されます。

 家具のない、四角い部屋を見回しながらリビングへ戻ると、また声真似の主たちが好き勝手にコーラスをつけて足音を広げます。

 そうそう、声って、四角くて小さな箱に折り畳んでしまっておけるんですね。

 それを広げて一度に鳴らすこともできるし、蓋から順番に一面ずつ向けて合わせて、話すことだってできるんだよね。

 その秘密、ちょっとぺしゃんこにして、隠しておきましょうかね。

 また組み立てる時に、順番がおかしくなっちゃったらごめんなさいね。

 そしたら気づかれる前に一気に鳴らしちゃう。

 いつのまにか畳んでいたわたしの心とからだも、運んだ先ではそんな風に、ぱたぱたと広げていかなくっちゃね。

 ぱたぱたって。ぱたたぱたぱたったたたぱたぱたたたたた。

 いいの、それは。これは少しのあいだの、あいだの話し。なしなし。話し!

 部屋ががらんと広くなったから、みんな少し出てきて遊ぶといいですよ。

 ですよ出て広くなれると遊べばいいかったら。

 ん?

 ん、え? 

 ぴんぽーん。「こんにちは。東京電力のものです」

「はーい」……はーいはーい。「じゃあこちらに」らにらにらに、はーいはーい。「しっ!」

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