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ぱたん と

by 郷木 鳥夢

 傾いた日に、色がつきました。

 高い歩道橋を駆けていく、子供らの顔に明るい色が掛かりました。

 どこかで鳴ったクラクションが、インフィールドフライのように上がって、それが駅前の一角へ落ちてくるころには、気の早いネオンがひとつ、町に増えていました。

 今、この瞬間です。疑うようなことをしている時間は、いけません。ほら、チョコレートの箱をあけ、そこから一粒取り出し口に運んだ女の子が、そのままの、なんてことない流れで三日月の取っ手に手をかけ、ひゅんっとその扉の中へ入っていきました。

 そして「ぱたん」と空は閉じ、三日月がひとつ貼り付いた、繋ぎ目のない夕空に戻ります。

 男の子は、その手にはめるにはちょっとばかり大きい手袋をして、それを握ったり、広げたりしながら、急に立ち上がると、立ち上がった勢いそのままに、三日月の取っ手に手をかけて、さっぱりとあの扉の中へ消えていきました。

 あとにはさっきと同じように「ぱたん」と閉じた音がして、三日月ひとつ貼り付いた、繋ぎ目のない夕空が残されています。

 継ぎ目のない夕ぐれ空に、細い三日月がひとつ。

 その空へ、またひとつ、遠くで鳴ったクラクションが投げつけられて、またこの近くへ落ちてきました。

 クラクションの落ちた駅前ロータリーから、路線バスが出ていきます。ディーゼルエンジンをうならせ、前脚だけで体勢を変える、大型の猫科動物のように、顔を横に向けながら発車していくところです。

 いつも通りの夕空と、その手前で変わらない、いつもの営みが続いている、そんな今、まさにこの瞬間。誰でも、手をかけさえすれば開けられる扉が、夕空のグラデーションの中にあります。

 上がっていく三日月が取っ手になる、あの扉。

 首をかしげるより早く、なんてことのない所作で手をかければ、さあ、開けることができる扉は、開けてしまえばいいのです。三日月に手を掛けて、そのままあの扉の中へ、ほら。

 すると後ろで、自動的に閉まる扉が音を立てました。

「ぱたん」と。

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