LOG IN

『夜をクジラと』(動画小説付き)

by 郷木 鳥夢

『 夜をクジラと 』

 深い夜、長いインターチェンジをぐるぐる回り、これでもかというほどぐるぐる回り、やがて真っ直ぐな道に出た。

 その先には、もう、朝がなかった。

 いい道だね、と僕は言った。

 曲がりはたおやかで、邪魔な対向車もなく、それにオレンジ色のナトリウム灯が均等に並んで流れていく。

 悔いも労りもひと色の寝衣。寝かしつけるように照らしてくれる。

 対して君からの返事はなかった。見れば、いつの間にか眠ってしまった君の睫毛を、ナトリウム灯のオレンジが撫でている。

 もう、前方には、朝がないのだという。

 僕たちが出会った時のことを、いまも、昨日の事のように覚えている。

 けれども、そこから歩んできた道のりについて、昨日の事のようには、思い出せない。

 不思議なものだ、と僕は思う。

 出会ったことは、昨日の事のようなのに、今夜へと続いた長い道のりは、なんだか、遠い星を見上げるようにしか、思い返せない。

 水筒には、まだあたたかいお茶が残っていた。

 僕が選んで、君が淹れた。

 一口ずつ含むと香る。

 前方に、大きなクジラの背を撫でるような、ハイウェイのアップダウンが続いている。

 深海に、のまれない浮力の行き先を、ナトリウム灯の水滴が飾っている。

 いい夜だ。僕はもう一度思う。

 もう、次の朝は、やって来ないのだという。

 もし、少しくらいは、ひどく見積もって準備していたとしても、結果としては同じように、こうして道を走ってはいただろう。

 開くと長さの違う指。ぎゅっと握って、みれば揃う。握った手のひらの中を滑って、ゆっくりとハンドルが回る。

 行き先は、回るハンドルの、いつも一点を移動してきて、ここになる。

 ここ以外の、本番はない。

 いい夜だ。クジラが深海の一番高いところを、悠々と泳いでいく。

 オレンジのしぶきが、星のかわりにまたたき、数々の出来事を思い起こさせる。

 遠い星を、見上げるように思い出すような。

 静かで、とてもいい夜だ。

 この道は朝に、つながっていない。が、沈んではいかない。

 ダイナミックで、とてもいい道だ。

 夜をクジラが、星とともに泳ぎ、僕たちは周囲で、小魚になって、キラキラと群れる。

「夜をクジラと」

【了】

動画小説 ▼

#散文詩的に幻想短編小説

OTHER SNAPS