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モノクロ金魚

by 郷木 鳥夢

 ガシャンと、かわいくない音立てて、活字のかたまりが一匹、生まれて落ちます。自由に泳げる水なんてない、部屋の隅っこ。尖った尾ひれを、きしきし、動かし。

 でもかわいい、それはモノクロ金魚。

 名前はたとえば、今日の日付で、八月八日ちゃん。

 金魚を見おろしている笑顔の明るさ、だいたい六〇ワット級。祭りの屋台には、遠縁の関係者が遠巻きに集まってきました。

 裸電球は夜を、一層黒々とさせて見せますけど、たとえば夜店の屋台を照らすような夜にしか、こうは見えないし、こうは見られないのですよ。

「やあ、いらっしゃい」

 目は伏せたままで。少しだけ笑むのは、まあ、いいか。

 それで、「モノクロ金魚の金魚すくいは、如何?」って言うときも、見下ろす顔は六〇ワットクラスの表情です。

 はい、どうぞ。白紙ですくうの。破ったりしないように気をつけて。 ────このあちこち尖った黒い立体、一体なんて読むんですかね? ────それ、どこかの角度から見たときだけ、読めるの。でもかわいいでしょ、尾ひれきしきし動かして。 ────尾ひれ、何かとつながりたがってる気がするけれど。 ────そう。あ、気をつけて!モノクロ金魚は、変容するのが得意なんだから。

 今日も店じまいをして、電気を消して、それから空に残った星の光と光とを、でたらめに結びつけて眠りにつきます。

 あの星座は、数字のない時計の針。あっちは、弓を引くような湾曲の海岸線。それと、日の入りを作るときに使う谷折り線。これは夜を灯す電灯のスイッチ。

 ほら!だから言ったのに。モノクロ金魚は、そういう何もかもに、なりかねないって。

 夜をともす、電灯のスイッチを引いて、得体のしれなかったあれらは、とめはね払いのしっかりとした、なんだか立派そうな思い出に収まりました。

 するとまた、ガシャンと音を立てて、生まれたモノクロ金魚が一匹。この四角いページの隅っこで、尖った尾ひれを、きしきし、動かし。

 ああ、やっぱりかわいいモノクロ金魚。尾ひれはまだ、何語にもなる前の、名前はきっと、新しい日付で────。

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