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闇を飛ぶ者

by 郷木 鳥夢

 人通りのない夜道では、こんもりと盛り上がった何かの植物の影が、星のほうへ手を上げて、おそらくはタクシーのようなものを待って、立っています。

 道沿いには、いくつかの街灯があったはずなのだけれど、今はそのどれもが消えてしまって、真っ暗です。

 あとはこの宵闇の道を帰るだけだというのに、通りには、人もいなければ猫もいません。たびたび夜空と反転してしまいそうになるその道を、何とか歩いていくと、すぐ先の角に街灯がひとつ点りました。

 街灯の下で一度息をついて、それからまた先の真っ暗な家路を急げば、次の角で、待っていたかのようにまた街灯がひとつ点ります。

(変だな)と、歩いてきた真っ暗な一本道を振り返ってみると、さっき一息ついたあの角で、点っていたはずの街灯は消えていて、道は真っ暗です。

(妙だな)と、ここから続く道の先のほうへ目を凝らしてみると、いつもならたくさん並んであるはずの街灯が、一つ残らず消えたままです。

 真っ暗な一本道に点る街灯は、頭上のひとつきりでした。

 とにかくそれまでよりも足早になって家路を急ぐと、歩調に合わせたかのように、次の街灯がひとつきり、ちょうど、ぽつんと点るのです。

 振り返ってみると、先ほど点っていた街灯はやっぱり消えていて、来たはずの道は真っ暗です。

 あとにも先にも、真っ暗な道で、たったひとつきり点っている街灯が、いつも頭上にだけあるらしいのです。

 もっともっとと足早に歩いてみても、またちょうどのタイミングで次の街灯が頭上にひとつきり点り、振り返ると、やっぱりさっきまでの街灯は暗く消えているのでした。

 そうやって少しばかり先を急ぎ過ぎたせいでしょうか。歩いていく速度は、すでに駆け出すように速くなり、もうどうにも、その加速を抑えられなくなっていきました。

(この歩みを緩めたら、街灯が、先を行ってしまう)

 などという気さえし始め、ついには暗闇の中を、闇雲に、もう泳ぐように道もよく見ず、走り出すことを抑えられません。

 だって止められないじゃないですか。次々と頭上にだけ街灯が点り、背中のほうで街灯が消えていく気配がしています。

 ですからもう、走り続けるより他になくなって、息を切らしながら、ただ、ぐんぐんと速度を上げていくばかりです。

 ずいぶん走って(次の角を曲がれば、家の明かりが見える)そんな場所までやってきたとき、ちょっとだけ余裕が生まれました。

 そこで、頭上にいつもひとつきり灯る街灯を走り過ぎ、その先の街灯が点るよりもはやく立ち止まって、足もとに落ちていた、こぶしほどの大きさの石をつかむと、前の街灯と、次の街灯との間の暗闇に向けて、ぎゅんと投げつけました。

 闇から「どん」と音がして、黒いマントの何かが落ちてきましたが、それが何かはわかりませんでした。

 落ちてきた何かは、無念そうな声を漏らしたあとで、近くの暗い畑に飛び込んで去ってしまいました。

 すると辺りはいつも通り。

 振り返れば、街灯はすべて、ちゃんと点っていましたし、道沿いの家々はその窓に、数え切れないほどの明かりを灯していましたし、そうそう、古いレコードに針を落としたような、静かな虫の声も途切れなく、聞こえていたんです。

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