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冬の文字盤

by 郷木 鳥夢

 冬の出窓から、彼女は時計を投げました。どこか月光を含んで明るい雪が、ゆっくりと続く湖の真ん中に、投げました。

 降り続く雪はふんわりと、分厚くて、均等に掛けられる真っ白なブランケットです。風はなく、積雪の上には、誰の足跡もありません。

 彼女は、しんとして、動く気配を見せない世界を、選んでみたのです。

 凍った湖の上へ、仰向けに投げ出されている時計は、もう、針を回していません。───芯の一点になって、世界のほうを、回し始めたからなのですが───ですから今、世界はゆっくりと回る、巨大な文字盤のほうです。

 冬の出窓から時計を投げて、それから彼女はずっとここの住人です。

 円で閉じられたここは、知られない部屋の、知られない数字です。巨大な文字盤として、投げた時計を中心に回る、何とも読めない、ぼんやりとした数字です。

 自分以外のどこかには、決して行けたりはしないこと、それを確かめるためだけに、みんな、どこかへ行ってしまったけれど、彼女はこれからもここの住人です。

 彼女は、毎晩同じ冬の夜に目を覚まし、変わらない部屋を見ます。窓の雪明かり。その手前に長机。上にいくつか積み重ねた、本の角張った影。ペン立てから突き出ている筆記用具の影は、永遠に建築中の建物のように見えます。机の向こうに椅子があり、背もたれの部分は、両手を挙げた子供のように突き出ていますが、じっとして、動きません。

 彼女は以前、冬の出窓から時計を投げました。どこか月光を含んで明るい雪が、ゆっくりと続く湖の真ん中に、投げられた時計がこの場所を、文字盤のように回しています。

 何周も、何周も円で閉じられたまま、ずっと、ずっと回り続けます。

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