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いくつものブルー

by 郷木 鳥夢

 わたしが立った屋上から、そのほかの、ほんとうにたくさんの屋上を見下ろすことができました。わたしのことを一度も見上げない、近隣の屋上人たちは、それぞれの屋上花壇で、みんな熱心に水をやっています。

 花の色はブルー。いくつものブルー。そうした屋上が、街の中空で、様々な高さと広さで点在しているんです。

 生活の水面は、ここより高い空にありました。わたしたちは少し息を苦しくしながら、町ごと沈んでいたんですね。

 あの高い空から沈んで来た、その途中で、爪先立ちの足が最初につくのは、まずこんな屋上です。これより生活の水深が深いところでは、国道の幹に市道が枝を絡め、電線が伝い茂り、地下道が根を張っています。

 わたしのことを一度も見ない、近隣の人々はそれぞれの屋上で、花に水をやっています。花の色のほとんどはブルー。ところによりピンクにも開くけれど、手折られたらそれは、胸や髪に飾られて、一つ残らず萎れて終わるものです。

 わたしたちのつま先立ちは、生活という水中のうち、降り立った屋上でそれぞれに止まりました。屋上の広さ高さはまちまちで、屋根はないから日差しが強くて、今日もみんな熱心に水をやっています。

 日の高さは、約束の時刻を越えていきます。じりじりと進み、期待で膨らんだ胸に生じているように思うのは、黒い小さな虫の巣穴でしょうか。それを思うと胸のあたりがひやりと震えて、次の呼吸を、少し先の未来まで送るために、いっ時止めてしまいそうになります。

 迷うときにも近隣の人々を見下ろしますが、そこにはそれぞれの屋上で水をやっている花のブルー。ブルー、いくつもの、ブルー。

 荷物のないわたしの屋上も、光を遮る屋根はなくって。空を見上げると、背伸びした屋上から、どうしても届かない距離を見つけてしまうのだけれど、これより高い背伸びは、この屋上にないんです。

 お昼のサイレンです。みんなが水やりの手を一斉に止めて、それぞれの屋上で、一人残らず空を見上げました。午後の始まりを告げる飛行機雲が、青い上空で鐘のように白く鳴って見えます。

 約束のようなものがあったようにも思うのですが、針の外れた時計のように、下り坂を滑って行くようでした。遠退いて行く予感を前にして、行き先の知れない速度でしか、ここへは留まれないようにも感じます。

 待ち合わせの遠退く、その速度の色もまたブルー。見上げても見上げても、同じ色をした、あの届かない水面まで、窓一つありません。

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