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残る半片を言う声

by 郷木 鳥夢

「一人分に満たない、なんだか、ここにいない人を見てる気分になるよ」

 そんな言葉を掛けられたことがある人なら、ときに計れない種類の時間が過ぎることも知っていることでしょう。

 返事までの空白は長く、形にならないまま───窓の傍に座り、薄青い空を見て、ホットミルクの入ったマグカップを口元に運びます。

 言葉はずっと、掛けられたときと同じままです。

「ねえ、半分なくした分の見えないそれは、どこへいっちゃったのさ」

 薄青い空には、薄らとしたベールのような雲が掛かっています。

 それはホットミルクから昇った湯気のようでもありますし、もしかしたら本当にそうなのかもしれませんし、と昼食代わりにまるいビスケットを一枚つまみ、手元のホットミルクに「ちゃぷん」と浸してみたりします。

 するとビスケットが軽くなったので、引き上げてみれば、浸した半分がさっぱりと消えてなくなっているのですから、もう、手の中に残ったほうのビスケットをかじりつつ、あの時うまくできなかった返事を考える時なのかもしれません。

(心みたいに浮力のないものは、一番深いところに沈んで、ずっとそこに、でもちゃんとあるんじゃないのかな)

 投げた言葉の、届く先もない窓辺で、仕方なくマグカップを軽く回すと、その中をミルクが、見えない風のようにゆっくりと流れ出しました。

 消えた分のビスケットは、マグカップのなかに現れません。

 雲をかきわけていく行為のように、カップの底が見えるところまでホットミルクを飲んでみても、なくなったほうのビスケットは出てきません。

 最後に、空っぽになったマグカップを両手の真ん中に残し、あとは窓の外を見て、割とまとまった時間をやり過ごします。

 薄青い空は、空の高いところほど色が深いものでした。

 空の、その色の一番深いところに、さっきまではなかった真っ白な月が、半分だけありました。

 浮力のない、ミルク色に染まった半月が、空の一番深い頂上に沈んでいますから、空の一番底に落ちた半片を、見下ろすような気持ちで見上げている、そんなお昼時です。

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