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アボカドランチ

by 郷木 鳥夢

 お昼休みの公園ベンチに座ってランチする途中、ふーっと吹いた呼吸音は、広大な演奏の一部でした。

 メロディのあることに気付けたのは、いつの間にやら口ずさんでいた演奏を、口へ運ぶアボカドサンドが、所々「ぱくっ」と区切っては、一小節より長めにメロディを止めたからです。

 アボカドサンドはここよりも、ずっと濃い春の香りがしましたが、雪どけの感じに少し近い気配もありました。

 白いパンは、気温よりも暖かく見える雪の層を思わせましたし、間に見え隠れするアボカドのディップなんて、ちょっと顔をのぞかせた新芽のことなんかを、連想させるものですよ。

「ぱくっ」とするたび、所々中断しながら続いたメロディを、大きめに区切った最後の一口───そこはもぐもぐとふんふんの中間くらいで息をしながら───晴れた空を見遣っていたら、鼻腔と肺は日射しまで段差も境もなく、このアボカドっぽい香りの呼吸でつながってしまいました。

 帰宅途中の、たくさんの荷物を抱えた小学生らが、日射しの中で、こうもり傘を開いてみせました。明るい色の日傘じゃなくて、みんな真っ黒こうもり、学校の置き傘です。

 顔を隠して、くるくる回して、通り過ぎていく声たちのその顔はちょっと見えなくて、でも歓声だけでじゅうぶん、その表情はうかがえます。

 一人残らず、人生からランドセルをなくしてしまいますが、そしたら、替わって真新しいランドセルが、あの校舎に増えることでしょう。

 やって来る春があることは、どこかの国に秋が訪れたという、確かな証拠でもありますから、みんな大きく輪に乗って踊っていますし、あんなふうに傘だって回します。

 そんなふうに参加してたら、このアボカドっぽい香りの呼吸は、肺の底から、どこかの遠い国に降る、激しいスコールへまでつながってしまいます。

 そこは今頃夕暮れで、玄関を勢いよく開けて帰り着いた子どもの「ただいま」って言う声のこと───それがここまでは、今まだ聞こえてこないだけだっていうこと───みんな大きく輪に乗って踊って、黒いこうもり傘がくるくる回り、口へ運ぶアボカドサンドが、そのリズムを所々「ぱくっ」と区切ってもぐもぐ、公園ランチはベンチの左端だけれど一人でも真ん中。

 メロディーの先端が、少し湿って聞こえるのにも理由はあって、きっとどこかの国に降っているスコールのせいです。ですから晴れた公園で、あの子がこうもり傘を差したくなったのは、どこかの国の玄関前「ただいま」って、家に帰り着いた誰かが、差してきた傘を、畳んだせいで。

 ところで、アボカドサンドの公園ランチは、広大なメロディーに参加して、どこかへ渡されて行きますから。「さて」と、お昼休みを終えて立ち上がりますから。今、ほら、もしかして誰か、ちょうど入れ替わりに、ふと歌を、それは通り抜ける風のような訪れ方で、鼻歌を、ちょうどあなたのあたりの位置で、歌いかかって、いるのではありませんか?

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